大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 平成元年(オ)1666号 判決

上告人

日鉄鉱業株式会社

右代表者代表取締役

吉田純

右訴訟代理人弁護士

山口定男

中川幹郎

関孝友

三浦啓作

松崎隆

被上告人及び訴訟代理人

別紙被上告人目録及び別紙被上告代理人目録記載のとおり

右当事者間の福岡高等裁判所昭和六〇年(ネ)第一八一号、第一八二号、第三三九号、第七〇一号損害賠償並びに民訴法一九八条二項による返還及び損害賠償請求事件について、同裁判所が平成元年三月三一日言い渡した判決に対し、上告人から一部破棄を求める旨の上告の申立てがあり、被上告人らは上告棄却の判決を求めた。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山口定男、同中川幹郎、同関孝友、同三浦啓作、同松崎隆の上告理由第一点について

契約上の基本的な債務の不履行に基づく損害賠償債務は、本来の債務と同一性を有するから、その消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時から進行するものと解すべきであるが(最高裁昭和三三年(オ)第五九九号同三五年一一月一日第三小法廷判決・民集一四巻一三号二七八一頁参照)、安全配慮義務違反に基づく損害賠償債務は、安全配慮義務と同一性を有するものではない。けだし、安全配慮義務は、特定の法律関係の付随義務として一方が相手方に対して負う信義則上の義務であって、この付随義務の不履行による損害賠償請求権は、付随義務を履行しなかった結果により積極的に生じた損害についての賠償請求権であり、付随義務履行請求権の変形物ないし代替物であるとはいえないからである。そうすると、雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償債務が、安全配慮義務と同一性を有することを前提として、右損害賠償請求権の消滅時効は被用者が退職した時から進行するという上告人の主張は、前提を欠き、失当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程にも所論の違法は認められない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫)

被上告人目録

被上告人 阿曽正文

外七一名

被上告代理人目録

被上告人ら七二名の訴訟代理人弁護士 横山茂樹

外三三名

被上告人有川春幸、同山田政次、同井手留雄の訴訟代理人弁護士 佐伯静治

外二〇八名

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例